災害リスクマネジメント

劣化ハザードモデル


劣化ハザードモデルに関する研究概略

(文中の括弧内の数字は下記論文と対応しています)

本研究室では、土木施設の劣化現象をハザードモデルを用いてモデル化しています。ハザードモデルは、医学の生存分析から機械の信頼性解析まで様々な分野で用いられているモデルで、特定の状態の継続期間や終了時間を分析するのに適しており、本研究室ではそれを主に劣化過程に適用しています。伝統的なハザードモデルは2値問題に用いられ、本研究室ではトンネル証明の故障の有無(1)などに適用しています。 しかし、実際の土木施設の劣化過程には様々な段階があり、健全度などを用いてランク付けされていることが少なくありません。本研究室ではそのような劣化現象を扱うために多段階の劣化過程を表現できるモデルを開発しました(2,3など)。

これらを基本モデルとして、本研究室では土木施設の劣化過程や点検業務に存在する様々な問題を解決しようと試みています。例えば、劣化予測に不可欠な点検サンプルのバイアスを解消する方法を提案しています(7)。具体的には、道路舗装の補修に伴い劣化の進んだサンプル(道路区間)が相対的に少なくなり、通常の推計では道路舗装の期待寿命が過大評価になってしまうのですが、これを防ぐ方法を提案しています。また、点検行為そのものに存在するシステム的な誤差やランダム誤差による推計値へのノイズを取り除く方法も現在開発中です。更に、道路舗装のひび割れ現象の多様性(縦ひび割れ、横ひび割れ、面ひび割れ等が存在)に着目して、それらを区別しつつ道路舗装のひび割れ過程を表現する劣化予測モデルを提案しています(9)。

これらの劣化予測モデルは最適なアセットマネジメントを行うための重要な指標を与えるものであり、本研究室でも実際にマネジメントに適用しています(4,5,10)。 

また、推計方法については、主に最尤推計法を用いていますが、解析的に解けない場合やサンプル数が少ない場合などにはベイズ推計を行っています(6,8)。

適用範囲は実績としては今のところ橋梁・道路舗装・道路付帯施設・港湾等にとどまっていますが、空港施設・上水道・下水道などにも現在適用を進めている最中であり、劣化ハザードモデルの適用範囲は非常に広いと言えます。

 


劣化ハザードモデル・カテゴリー分類図

下図では上で紹介した劣化ハザードモデルを体系的に分類しました。

指数ハザードモデルは時間に影響を受けない劣化現象を、ワイブル劣化ハザードモデルは時間に影響を受ける劣化現象を表現するのに適しています。

hazard.jpg 


論文

1) 青木一也,山本浩司,小林潔司,2005,劣化予測のためのハザードモデルの推計,土木学会論文集,No.791/VI-67,pp.111-124. 

2) 青木一也,山本浩司,津田尚胤,小林潔司,2005,多段階ワイブル劣化ハザードモデル,土木学会論文集,No.798/VI-68,pp.125-136.

3) 津田尚胤,貝戸清之,青木一也,小林潔司,2005,橋梁劣化予測のためのマルコフ推移確率の推計,土木学会論文集,No.801/I-73,pp.69-82.

4) 青木一也,山本浩司,小林潔司,2005,トンネル照明システムの最適点検・更新政策,土木学会論文集,No.805/VI-67,pp.105-116.

5) 青木一也,山本浩司,小林潔司,2006,時間依存型劣化過程を有するシステムの集計的最適点検・補修モデル,土木学会論文集F,Vol.62,No.2,pp.240-257.

6) 津田 尚胤, 貝戸 清之, 山本 浩司, 小林 潔司, 2006, ワイブル劣化ハザードモデルのベイズ推計法, 土木学会論文集F, Vol. 62, No. 3, pp.473-491.

7) 小林潔司,熊田一彦,佐藤正和,岩崎洋一郎,青木一也,2007, サンプル欠損を考慮した舗装劣化予測モデル土木学会論文集F,Vol.63, No.1. pp.1-15.

8) 貝戸清之,小林潔司,2007,マルコフ劣化ハザードモデルのベイズ推計,土木学会論文集A,Vol.63, No.2. pp.336-355.

9) 貝戸 清之, 熊田 一彦, 林秀和, 小林潔司, 2007, 階層型指数劣化ハザードモデルによる舗装ひび割れ過程のモデル化 ”, 土木学会論文集F, Vol. 63, No. 3, pp.386-402.

 

 

10) 貝戸清之,山本浩司,小濱健吾岡田貢一,小林潔司:ランダム比例ワイブル劣化ハザードモデル:交通管制システムへの適用,土木学会論文集(投稿中)


11) Tsuda, Y., Kaito, Y., Aoki, K. and Kobayashi, K., 2006, Estimating Markovian Transition Probabilities for Bridge Deterioration Forecasting, Structural Engineering and Earthquake Engineering, Vol. 23, No.2, pp.241-256.

 

12) 青木一也,2007,土木施設の劣化予測の計量化手法,土木計画学論文集

  


文責 

林 秀和 

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