近年,社会資本の評価手法として費用便益分析が幅広く採用されるようになっています.しかし,費用便益分析は「プロジェクトをいま実施するか,あるいは二度と行わないか(now-or-never basis)」という選択問題として扱っており,プロジェクトの実施を留保することを認めていません.多くの社会資本整備プロジェクトにおいては,将来の経済の状況を見守りながらプロジェクト実施のタイミングを見極めることも可能です.将来のプロジェクト環境に大きなリスクが介在する時,プロジェクトの実施を延期できる可能性は大きな価値を持ち得ます.このような意思決定の柔軟性を考慮に入れた,社会資本整備の経済評価を最新の金融工学手法(リアルオプション理論)を用いて設計しています.また,リアルオプション理論に基づき,プロジェクトへの投資機会をオプションとして捉えることで,費用便益分析では十分に検討できない複数プロジェクト間の相互作用を明示的に考慮することも可能となります.
研究テーマ: 費用便益分析、リアルオプション理論
事例: 道路事業評価手法(国土交通省道路事業評価検討委員会)
関連論文:
小林潔司,文世一,多々納裕一,1995,交通情報による経路誘導システムの経済便益評価に関する研究,土木学会論文集,第506号/IV-26,pp. 77-86.
秀島栄三,小林潔司,1997,農村風景の保全便益と費用負担に関する研究,第32回都市計画学会学術研究論文集,pp. 397-402.
多々納裕一,小林潔司,馬場淳一,1999,滞在時間分布を考慮した旅行費用法によるレクリエーション便益の計測,土木学会論文集,No.625/IV-44,pp.113-124.
松島格也,小林潔司,吉川和広,肥田野秀晃,2000,身体障害者の活動支援施設の経済便益,土木学会論文集,No. 653/IV-48,pp. 133-146.
小林潔司,2000,地域間公平論を巡る論点と課題,運輸政策研究, Vol. 3, No. 3, pp. 13-24.
横松宗太,織田澤利守,小林潔司,2001,プロジェクトの実施遅延がもたらす経済損失評価,都市計画論文集,Vol. 36,pp.937-942.
松島格也,小林潔司,肥田野秀晃,土屋啓志,2002,利他的動機に基づくCVM調査方法,土木計画学研究・論文集,Vol.19,No. 1,pp.111-122.
織田澤利守,小林潔司,2003,プロジェクトの事前評価と再評価,土木学会論文集,No.737/IV-60,pp.189-202.
織田澤利守,小林潔司,2003,不確実性下におけるプロジェクトの最適評価・実施タイミング,都市計画学会論文集, No.38, pp.169-174.
織田澤利守,四辻裕文,小林潔司,2003,遅延リスクと事業評価,建設マネジメント論文集, Vol.10, pp. 119-128.
織田澤利守,小林潔司,松田明広,2004,評価費用を考慮したプロジェクトの事前評価と再評価,土木学会論文集, No.751/IV-62, pp. 97-110.
長谷川専,織田澤利守,小林潔司,2004,遅延リスクを考慮した公共事業の事前・再評価,土木計画学研究・論文集,Vol.21, No.1, pp.63-74.
織田澤利守,長谷川専,小林潔司,2005,不確実性を考慮した公共事業評価スキームの設計手法に関する考察,土木計画学研究・論文集,Vol.22, No. 1, pp.65-76
横松 宗太, 湧川 勝巳, 小林 潔司、2008, 家計の流動性制約と防災投資の経済評価, 土木学会論文集D, Vol. 64, No. 1, pp.24-42.
最終更新日 2013年2月22日(金曜)13:52